甘くないプリン開発!!フルボッコ編
「もうこれじゃ一年前に戻っちゃってるじゃん」
マルトモさんの後ろ姿を見送りながらコッシーがつぶやいた。 口調には苛立ちが混じっているがその目は優しい。
私は「確かに。また病気が出たね・・・」と苦笑いし、こりゃ緊急招集だな、と顔を見合わせたのが1週間前だ。
ニイガタ プリン・オープンラボは、発足してそろそろ一年が経とうとしている。
そもそもはマルトモさんが「チームでなにかを作る経験をしたい、人に頼れるようになりたい」というの想いを私たちに打ち明けたことが発端だった。
そして、そのために「新潟のご当地プリンを作りたい」という話に、私たち”理想の休日ドットコム”は乗ったのだ。
この一年、私たちの他にプロのプランナーやデザイナーを巻き込んでプランを練り、ようやく見えてきたプリン開発。
だが、 いざ、実働というこのタイミングで、動きが止まっていた。
なぜなら、また発症したのだ、彼女は。
「全部抱え込んじゃう病」を・・・
緊急招集ミーティングが開かれ、今の状況を確認してみると、彼女はプリンの作製工程と配送に関する制約に悩み、むしろその制約に合わせたプリンプランを立てていた。
制約によって、そもそもコンセプトや計画が大幅に変わってしまっている。
そう、本来やるべきことからは外れていってしまっていたのだが、1人で解決しようとするあまり袋小路に入っている事に気づいていない。
しかし、彼女も心の底ではわかっていたのだ、「これは無理がある」と。
そんな彼女にメンバーから容赦のないツッコミが入った。
「またやったでしょ!一緒に作る過程の楽しみが報酬だと思ってやってるんだから、それを私たちから奪ってどうする!淋しいし、つまらんわ!」
「どうして制約に悩んだ時点で相談しないかなぁ、問題を共有してくれなきゃ助けられませんよ」
それを聞いたマルトモさんは、だんだん椅子の上で丸くなり、フードをかぶって顔を覆い、肩を震わせはじめた。 そして「・・5分休憩します」つぶやくと、階段下に隠れてしまった。
その姿はまるで座敷童のようで、私は少し笑った。
コーヒーのお代わりを入れ、談笑して彼女を待つ。
しばらくして戻った彼女の顔は明るくなっていて、焦りの色が遠のいていた。
何かが吹っ切れたようだった。
聞けば、自分がきちんとプランを練り、具体的な業務としてお願いできる形にしてからじゃないと皆様に申し訳ない。と考えていたらしい。
皆でひととおり「全部抱え込んじゃう病」と「勝手に孤独になる病」の発症をなじり、頼ってくれなかったことに対する憂さを晴らす。
我々はマルトモさんが、悩んで右往左往する姿を見るのが大好きなのだ。
気を取り直し、新潟プリン設計図を見せてもらう。
・・・いいような気もする。
でも何か違和感がある。
するとそこへ
「このまま進めばレッドオーシャンです」
プランナーの山本さんが、真っ直ぐマルトモさんを見ながら言った。
「並みいるパティシエやコンビニスイーツと戦うつもりですか? マルトモさんのやりたいことはそうじゃないですよね?」
衝撃を受けたマルトモさんは、フードをかぶり、また丸くなった。
さながらねずみ男のようで、また笑ってしまった。
その後、コンセプトの練り直しによりニイガタプリンの設計図は大きな変貌を遂げ、持ち越されることになった。
たった2時間の間だったが、彼女の感情はきっとジェットコースターよりも大きく振り回されたことだろう。
これだから、やめられないんだよなぁ・・
わたしは楽しい会議にほくそ笑みながら、帰路についた。
ごとうじゅんこ
【本日のミーティングプリン】
三条「パティスリー ROOTS(ルーツ)」のデリシャスプリン 地図
【本日のおまけ】
打合せ後、Friend フレンド のイタリアンと餃子「ペア」を食べる栄一さんと、一息つけたマルトモさん。