ニイガタクラフトプリンのコンセプトはこうして生まれた的な話。
突然だが、皆さんはプリン好きだろうか。
私はゼリーよりはプリンが好きだ。そう、決してプリン愛に溢れている訳ではない。
その程度の男が菓子製造の経験もなく予算表もロクにつくれず、挙句の果てに見通しもプッ●ンプリンのように甘い(※怒ってはいない、むしろ応援している)主宰者・マルトモ氏の商品開発プロジェクトになぜか力を貸している。
ぶっちゃけ気づいたら巻き込まれていたという感じで、振舞われたプリンに何かよくないものが混入していたのだろうか…
自分は暇な感覚は1ミリもないが、プリンを報酬に仕事をするのだから、もしかしたらそんなに忙しくないのかもしれない。
さて。
すでに他の投稿でクラフトプリンの企画概要が語られていたが、今回はプランナー山本の視点から発表されたコンセプトができるまでにどんなやり取りがあり、主宰者にどんなツッコミをいれたのか書いてみようと思う。
読み終わっても何の役にも立たないかもしれないが、どのようにマルトモ氏をコテンパンにしたのかが分かるので、プロジェクトに興味をもっていただけた方は最後までお付き合いいただきたい。
1.「他県にはご当地プリンがあるけど、新潟にはない。だからご当地プリンをつくりたい!」
氏は「日本酒味とか、笹団子味とかどうかな☺」と嬉々と語った。
わかりやすいコンセプトだ。
初心者がまっさきに思いつくアイデアとして100点満点の回答だと思う。
あらかじめ誤解なきように言っておくと、このアイデア自体が悪いわけではない。
新潟らしいものとして定着している素材を使うことは鉄板だし、イメージもしやすい。味もなんとなく想像つくだろう。
だが、マルトモ氏が手を出すにはあまりにも無謀だと感じた。
それは新潟素材を使ったわかりやすいプリンをつくる必然性と物語性が氏には皆無だからだ。
たとえば、
”有名酒蔵の2代目が一念発起し、地元老舗洋菓子店とコラボ。素材には○○養鶏所の卵、酒米にも使われるお米で作ったライスミルクを使ったプリンで地域食材のよさをPRする”
こういう背景やルーツ(原点)があるならいいと思う。
もしくはマルトモ氏が生産者と深いつながりがあり、それをプロデュースするならそれでもいいだろう。菓子製造を行ってきた経験者であり、新しい商品として売り出すというのなら納得できる。
冒頭触れた通り、氏はプリンづくりの素人オブ素人である。
素人オブザイヤーがあれば新人賞にノミネートとされるクラスの素人だ。それを付け焼き刃でつくって売ったところで物珍しさで一時は注目され売れると思うが、今後のキャリアをかけて作るようなものではない、本質ではないと感じた。
背景として、マルトモ氏は売り上げを右肩上がりであげ、利益を出すことを第一目標にはしていなかった。
当時コロナの感染拡大によって自粛警察という言葉が生まれるなど、息苦しい空気が全国に広がっていたがそんな荒んだ心をプリンというコンテンツで癒したい、平和な気持ちを届けたいと語っていた。
であれば、商業ベースに乗った売れるためのありきたりなプリンではなく、プロジェクトベースのマルトモ氏だからこそつくれる唯一無二のプリンをめざすべきだ。
「(新潟らしい食材のプリンは)マルトモさんがつくる必然性がない。あなたのルーツはライターであり、たくさんのひとの物語を聞き出し、それを文字として伝えてきた」
「本人では伝えられないことを伝える力がある。菓子製造の経験はないが、その書いて伝える表現技術はあなたにしかないものだ」
そこから閃いたのが、『応援したい誰かのストーリーをプリンとして表現し伝える、メディアと連動した読むプリン』だった。
物や動物を人に見立てて表現する「擬人化」というものがあるが、これはその逆。人をプリンの味やパッケージで表現する「擬プリン化」である。
荒唐無稽なアイデアと思うかもしれないが、よくよく考えてみると人をモノで表現するというものは既に存在している。
たとえば香水。アランドロンというブランドの「サムライ(SAMORAI)」はアラン・ドロンが崇拝する三船敏郎をイメージしてつくられた香水だ。
アランドロン SAMORAI 公式ホームページ
https://sprjapan.com/samourai/
最初からイメージして作られたわけではないが、ワインの味の違いや特徴を有名人に例えて表現するというユニークなお店もあるという。
ニイガタクラフトプリンプロジェクトは、新潟の魅力的な人や応援したい人を取材し、その人の物語からイメージしたプリンをつくる。
プリンには取材対象者を知らない人にも伝えたい、マルトモ氏がライターとして書き著した物語が”トッピング”として添えられるのである。
もしかすると何の変哲もないプリンが出来上がるかもしれないが、その味とパッケージに至った理由が物語にはある。
買ってくれた方はその物語を読み、その人へ思いを馳せながらプリンを味わって楽しんでもらうというものである。
プリンをきっかけに食べた人が感想を語り合ったり、取材対象者に興味を持ってもらえれば嬉しい。
いつかご本人に会ったときにプリン食べましたなんていうトークが生まれても面白いだろう。
かくしてマルトモ氏の唯一無二のコンセプトが誕生したのだ。
ここまでくると皆さんもお分かりだろうが、誰をプリンにするかが肝心だ。
2.「取材対象者は〇〇さんがいい!季節的にもピッタリだよね!」
詳しくは語れないが、縁もゆかりもないような職人さんをピックアップしてきた。
選定理由は季節的(夏)にピッタリかな、だからだそうだ。
よくよく聞いていくと他にも応援したい理由があったが、全然ピンと来ない。ちがう、そうじゃないよマルトモ氏。
そもそも面識ない人にこんなよくわからない企画の取材なんぞ受けてもらえるだろうか?
皆さんも10秒くらい想像してほしい。
面識もない人からいきなりメールが届いて「あなたをプリンにしたい…!」と書かれていたらどうだろうか。
私ならそのメールを迷惑メールに指定しそっとブラウザを閉じると思う。もし電話での依頼だったらヤバいやつ認定は不可避だ。
氏は「いつも面識ない人にも仕事で取材アポとっていたから、いけるかなと思って…🤔」
いや、そこでガッツを発揮するの?しつこく粘られてこられたら怖いわ。
そのアポ取りにどこまでパワーかけるの?マジで時間ないよ。
断られても再アタックしてたら心折れるよ。ドMなの?
プロジェクトメンバーで再度話を聴きながら、次点で候補をあげてもらった。
ふむふむいいじゃないか。選定理由の背景、ストーリー性、タイミングもばっちり。何より深い関係性もあって一安心。実績もなにもない時は信頼を頼るのが大切だ。
このあたりのタイミングから、マルトモ氏はプリンポストというメディアの編集長、プリンを”つくる”のではなく”編集”するプリンエディターを名乗るようになった。
メディアの価値を保つためには、どんな記事をどういう方針で載せるかという編集方針が必ずあるはずだ。
それと同じように、誰を取材するかというのはこのプロジェクトの未来を占うといっても過言ではないと思う。
単に知名度があるからでもだめ。この議論はまだ十分ではないが、誰をプリンにして届けたいのかにはコンセプトとしてこだわっていきたい。
3.「(ラフ案を見せながら)これで試作を進めようかと思ってます。」
ばーん。なんだろう、一言で言えば属性全部乗せといった感じだ。
二次元でたとえるな「年上三編みメガネ学級委員長が主人公、異世界転生し魔法少女になって戦う、学園バトルラブコメディ」くらい盛り込み過ぎていると言えば分かるだろうか。自分で書いておいてなんだが私はよく分からない。
つまり何が言いたいのかというと、プリンに伝えたいことを全部盛り込み過ぎていて、食べる人の想像の余地がない。対象となった人はこういう人だから、この味になったのかな?といった感じでだ。
続けて「表現」ではなく「説明」になってしまっていると感じた。
プレゼンといいながら原稿を丸読み・棒読みし、説明口調で語るようなプレゼンほど聴衆をしらけさせるものはないが、いうなればそんな感じである。このプリンを食べてどう感じてもらいたいのかなどメッセージが伝わってこないのだ。
私はお菓子作りのプロではないが、多分このラフ案通りつくられたプリンはそれなりに美味しいと思う。写真映えもするだろう。ショーケースに並べてられていたらキレイだ。
だからこそ、この発想も危ういと感じた。
この路線のプリンでいくことは、並み居る製菓店やコンビニスイーツを競合にすることになりかねず、群雄割拠するプリン界に竹槍で殴り込むような感じだ。
素人オブザイヤー新人賞ノミネートのマルトモ氏が戦いを挑むのは死に戦である。
うまくいけば「あれ、赤くなってる。どこかで引っかけたかな?」というくらいの爪痕は残せるかもしれないが、少々リスクが高い。この路線はいわゆるレッドオーシャンだ。
ここでブルーオーシャン戦略を参考にしてみよう。
ブルーオーシャン戦略では、以下の4つの点を参考に従来のものと大胆な差別化を図るとしている。
①取り除く:やらないことを決める
②大胆に増やす:他があまり力を入れていない要素を極端に増やす
③大胆に減らす:他が積極的にやっている要素を極端に減らす
④付け加える:プラスワン、プラスαになるものを入れる
ニイガタクラフトプリンでは大手メーカーや洋菓子店がやらないようなもの、商業ベースには乗りにくいニッチ(隙間)をつくこと。他がこだわらないところをこだわり、マルトモ氏だから付け足せるものを付け足すのである。
どんなプリンを皆様にお届けできるのかはまだ未知数なところもあるが、ご期待に添えられるようなちゃんと美味しいプリンとなるよう、脱線しがちなメンバーをうまいこと引き戻しながら伴走していきたいと思う。
一番の苦労人は誰なんだろうね。
さいごに:プロジェクトの求心力となるもの
七転八倒、四苦八苦しているマルトモ氏だが、こうした変遷をたどり皆様にお披露目したコンセプトが生まれたわけだ。
ここまでくるのはなかなか大変だったと思う。なんせ本業は売れっ子ライター、時間的制約から苦労するところも多かっただろう。
こうして振り返ってみると、そんな状況にもめげずに撃ち落されても不死鳥の如く蘇るマルトモ氏だからこそメンバーは協力しているのだと思う。100日プリンをやり遂げた熱量は伊達じゃない。
人からの応援を集める力を私は「受援力」と表現している。
自ら助けを求めなくとも絶妙なタイミングで救いの手が差し伸べられ、結果としてうまく事が運ぶことができる力だ。
これは甘え上手というよりは危なっかしい、放っておけない、憎めない、人たらし、苦手なことをオープンにできるような人が時々持っているスキルだ。
マルトモ氏は甘えたり人に頼るのが苦手だと語っていたが、その七転八倒する姿が受援力を生み、なんだかんだみんなかかわっているのだと思う。そろそろ自覚してもいい頃合いだが。
まぁそんなこんなでここまできたプロジェクト、この後もきっと…いや、必ずバタバタするであろう行く末をぜひご期待いただきたい。
※更新が途絶え途絶えになったら、その時は察してください
おわり
writing by やまもと